すばる望遠鏡が明らかにした新星爆発によるリチウム生成量の多様性 - ニュース
新星爆発の際にリチウムが生成されるようす(想像図)
新星爆発の際にリチウムが生成されるようす(想像図)。白色矮星(わいせい)と進化の進んだ恒星から成る連星系で、恒星のガスが白色矮星に降り積もり、白色矮星の表面が高温・高圧になって爆発を起こす現象が新星爆発です(図中央手前が白色矮星、奥が進化の進んだ恒星)。この爆発の際に、ヘリウムの同位体(3He、4He)からベリリウム(7Be)が作られ、ベリリウムは53日の半減期でリチウムへと変化します。(クレジット:京都産業大学) オリジナルサイズ(2.5MB)

宇宙に存在するリチウムが新星の爆発時に生成されることは、すばる望遠鏡を用いた研究で観測的に明らかにされていました。しかし観測を重ねることで、新星によってリチウムの生成量が多様であることも分かってきました。この多様性の要因は何か、また他の天体によるリチウム生成の寄与はどの程度あるのか。今後、さらに観測を進めることで恒星の物理への理解が深まることが期待されます。

水素、ヘリウム、リチウムの3種類の元素は、ビッグバンで合成されたと考えられています。しかし、現在の宇宙に存在するリチウムの量のほとんどは、これだけでは説明できません。星間空間や恒星の中、新星・超新星爆発などさまざまな条件でも、リチウムが生成されるのではないかと理論的に推測されてきましたが、観測による根拠は長らく得られていませんでした。

2013年、すばる望遠鏡に搭載した高分散分光器HDSを用いた新星「いるか座V339」の観測から、新星の爆発時にリチウムが大量に生成され、それが宇宙空間に放出されていることが、初めて明らかになりました。それ以降も同じ装置を用いた観測で、新星爆発によるリチウム生成が続々と捉えられてきました。

京都産業大学と国立天文台の研究者から成る研究チームは、すばる望遠鏡とHDSを用いた新星「いて座V5669」の観測で、史上8例目となる新星によるリチウム生成を捉えました。ところが今回は、リチウムの量がこれまでの例のわずか数パーセントとたいへん少なく、その生成量は新星によって100倍程度の幅があり、多様であることが分かったのです。これまでの観測例からは、ビッグバン以降の宇宙で生成されたリチウムの量の大部分の起源を新星爆発で説明することができていたのですが、今回の観測結果を含めると、超新星爆発といった他の可能性も考慮しなければなりません。

さらに今後は、リチウム生成が捉えられた新星の物理状態を詳しく調べることで、リチウム生成量の多様性が生じる要因が明らかになり、ひいては銀河系の元素組成の進化についての理解が進むことも期待されます。

このような観測成果は、地球大気の影響を受けにくいマウナケア山頂、そして大口径のすばる望遠鏡と紫外線域でも高い感度を持つHDSという好条件でこそ得られたものです。すばる望遠鏡には、国内外の天文学研究者から多数の観測提案が寄せられます。その中から採択された研究に観測時間を供する「共同利用」で、多くの優れた研究成果を生み出しています。本研究も共同利用による成果の一つです。

この研究成果は、Akira Arai et al. “Detection of 7Be II in the Classical Nova V5669 Sgr (Nova Sagittarii 2015 No.3) ” として、米国の天体物理学専門誌『アストロフィジカル・ジャーナル』オンライン版に、2021年7月上旬に掲載される予定です。

(追記:2021年7月27日)本論文は2021年7月23日付で出版されました。

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