古代中東の都市が「ツングースカ大爆発」のような天体衝突で破壊されていた可能性が高まる
地球に接近する隕石のイメージ(Credit: Shutterstock)

【▲ 地球に接近する隕石のイメージ(Credit: Shutterstock)】

北アリゾナ大学やカリフォルニア大学サンタバーバラ校などの研究者からなるグループは、古代の中東で栄えた都市の遺跡「Tall el-Hammam(トール・エル・ハマム)」における発掘調査の結果、この都市が1908年にシベリアで発生した「ツングースカ大爆発」と同様のエアバースト(強力な爆風)によって破壊された可能性が高まったとする研究成果を発表しました。

研究グループは、トール・エル・ハマムを破壊したエアバーストの規模がツングースカ大爆発を上回るほどだったと推定しており、都市の直接的な破壊に留まらず、本来肥沃だった土地に深刻な塩害をもたらした可能性も指摘しています。

■エアバーストの発生を示す複数の証拠が遺跡で見つかった

【▲ 上段:死海(Dead Sea)の北東にあるトール・エル・ハマム(Tall el-Hammam)の位置を示した図。下段:トール・エル・ハマムにあった宮殿(Palace)と寺院(Temple)の位置を示した図。遠くには死海が見えている(Credit: Nature, T. Bunch et al.)】

トール・エル・ハマムは死海の北東、ヨルダン渓谷南部の高台にある遺跡です。研究グループよると、トール・エル・ハマムはレバント(地中海の東岸地域)南部で人々が継続して定住していた青銅器時代の都市としては知られているもののうち最大で、紀元前4700年からおよそ3000年間に渡って途絶えることなく栄えた都市国家の中核を成していたといいます。

しかし、今からおよそ3600年前の紀元前1650年頃トール・エル・ハマムの繁栄は終焉を迎えました。遺跡は破壊され焼けた痕跡もある建材、陶器、骨、木炭や灰などが層を成す厚さ約1.5mの“破壊層(destruction layer)”に覆われており、発掘調査の結果、この破壊層からは宮殿の建物や城壁の残骸をはじめ、高い温度にさらされたとみられる外側が溶けてガラス状になった陶器の破片泡立った泥レンガ部分的に溶けた建材が出土したといいます。

研究グループが再現実験を行ったところ、これらの遺物は当時の技術では実現し得ない摂氏2000度以上の高温にさらされた可能性が示されました。戦争や地震にともなって発生した火災などではなく、より高い温度に達する何らかの出来事が起きたことを遺物は物語っていたのです。そのうえ、破壊層から見つかる陶器片などの分布には、南西から北東に向けての一貫した方向性がみられるといいます。

【▲ 上段:重さ400kgの石臼(Quern)が北東(NE)に向かって横転しながら移動したことを示す図。下段:3つの陶器の破片がいずれも北東へ向かって散らばっている様子を示した図(Credit: Nature, T. Bunch et al.)】

また、破壊層からは衝撃石英スフェルール(球状粒子)ダイヤモンドライクカーボンも見つかったといいます。衝撃石英は強い衝撃を受けたために亀裂が生じた石英、スフェルールは高温にさらされて溶融・蒸発した岩石が冷えてできたガラス状の粒子、ダイヤモンドライクカーボンは炭素を含む植物や炭酸塩岩が高温・高圧にさらされて熱分解した後に形成されたとみられる物質で、いずれも天体衝突が起きたことを示す証拠とみなされています。研究に参加したカリフォルニア大学サンタバーバラ校のJames Kennett名誉教授は「主な発見のひとつは衝撃石英でしょう」と語ります。

研究グループはこうした数多くの証拠をもとに、トール・エル・ハマムは3600年前に発生した天体衝突にともなうエアバーストによって破壊されたと考えています。研究グループがまとめた論文によると、エアバーストはトール・エル・ハマムから南西に数km離れた場所で発生。最初に高温の熱放射にさらされた粘土の屋根や泥レンガ、陶器などが溶け、そこに高温かつ高速の爆風が襲いかかったとみられています。

冒頭でも触れたように、論文ではトール・エル・ハマムを破壊したエアバーストの規模が1908年6月30日に東シベリアで発生したツングースカ大爆発(推定22メガトン)を上回っていた可能性があると指摘されています。その衝撃は泥レンガでできた壁を粉砕し、宮殿や城壁が築かれていた都市を跡形もなく破壊してしまうのに十分だったといいます。エアバーストの発生は当時のトール・エル・ハマムの住民にとって致命的な出来事で、痛ましいことに、出土した骨は人体が非常に強い衝撃を受けて損傷したことを示しているといいます。

■エアバーストは塩を撒き散らして深刻な塩害ももたらしたかもしれない

【▲ ツングースカ大爆発で発生したエアバーストの範囲を死海周辺の地図に重ねた図。ツングースカ規模のエアバーストがヨルダン渓谷南部から死海までの広範囲を覆う可能性が示されている(Credit: Nature, T. Bunch et al.)】

当時の人々にとってさらなる打撃になったと考えられるのは、エアバーストの一部が死海やその沿岸に達した可能性です。トール・エル・ハマムの破壊層で採取されたサンプルからは、高濃度の塩分(平均4パーセント、最大25パーセント)が検出されたといいます。研究グループは、死海の沿岸に達したエアバーストの強い衝撃によって塩の結晶が上空に吹き上げられ、トール・エル・ハマム周辺の地域に撒き散らされたことで深刻な塩害がもたらされたのではないかと考えています。

研究グループによると、ヨルダン渓谷の下流にあたるトール・エル・ハマムの周辺地域はもともと肥沃な土地で、当時は数万人の人々が生活を営んでいたようです。ところが、中期青銅器時代の終わりになるとトール・エル・ハマムや他の15の都市、100以上の集落が同時に放棄され、この地域はおよそ600年に渡ってほぼ無人のままだったといいます。エアバーストは都市の直接的な破壊だけでなく、この地域の農業に対しても数世紀に及ぶダメージを与えた可能性があるというのです。

なお、トール・エル・ハマムについては、旧約聖書の創世記に記されている破壊された都市ソドムとの関連も指摘されています。研究グループは論文において、トール・エル・ハマムとソドムの関連性についての議論は今回の研究の範疇を超えているとしつつも、3600年前に起きたエアバーストの目撃談が口頭伝承として語り継がれ、最終的に旧約聖書のソドムの記述につながった可能性に言及しています。

2019年、ツングースカ大爆発と同程度の規模の天体衝突が起こる頻度は数千年に一回だとする研究成果が発表されています。今回の研究は、ひとたび同規模の天体衝突が起これば都市や周辺地域に深刻な被害がもたらされる可能性を示しています。規模は異なりますが、2013年2月にロシアのチェリャビンスク州上空で発生した天体衝突にともなうエアバーストでは、およそ1600名の負傷者や建物の被害がもたらされました。

関連:安心できる?隕石が大気中で爆発した「ツングースカ大爆発」レベルの天体衝突、想定よりも低確率だった

深刻な被害をもたらす天体衝突を事前に予測し、将来的には小惑星などの軌道を変えて災害を未然に防ぐための取り組みは「プラネタリーディフェンス(惑星防衛)」と呼ばれていて、各国で対策が進められています。たとえばアメリカ航空宇宙局(NASA)ではプラネタリーディフェンスの一環として、二重小惑星のうち片方の軌道を変更する実験ミッション「DART」の探査機打ち上げを2021年11月に予定しています。

また、世界各地で実施されている新しい小惑星の探索も、潜在的に危険な天体を把握するという観点からプラネタリーディフェンスの一環と言えます。古代の遺跡が今に伝える深刻な被害を予測・防止する上で、プラネタリーディフェンスは重要な取り組みなのです。

関連:小惑星の脅威から地球を守れ! 危機意識を高める「国際小惑星デー」

 

Image Credit: T. Bunch et al.
Source: カリフォルニア大学サンタバーバラ校 / 論文
文/松村武宏

おすすめの記事